■起業の極意とは
周 起業はいまや社會のキーワードとなっています。私が社外取締役をしているある會社の過去10年間の成長分野を分析すると、多くの新規事業は子會社によって成長しています。
白井 買収によって子會社になった會社が、伸びているのですね。
周 新しいサービスを展開するスタートアップ企業を買収し、本社が持つノウハウ、資金力、マーケットを提供し、伸ばしている。數字を見てみるとこうしたパターンは、成長が早い。ただ、現在の若手の起業家を見ると、事業予測が甘く、仕事の詰めが甘いケースが実に多い。創業には、何が一番大切でしょうか。
白井 一番は、自分がやりたいことを形に表すことです。映畫や芝居が好きな若者がたくさんいるのは昔も今変わらない。1972年すなわち昭和47年のぴあ創業當時はインターネットも攜帯もない。大學に行き、映畫にもライブにも行きたいが、情報を調べる方法がない。それを解決するにはどうすればいいのかを考えた。情報を一覧表にまとめて雑誌スタイルにして印刷し出したら売れるのではないか、という発想でした。
次いで、チケット買うにはどうすればいいのかを考えた。有名ミュージシャンのコンサートチケットはプレイガイドを見るとほとんど売り切れ。渋谷は売り切れでも八王子の窓口では殘っていたなどのアナログシステムを、コンピューターで在庫管理するシステムへと変えた。これも要は自分たちが不便だと思うことを捉え、これがあれば便利だ、を作ったのです。グルメぴあも同様で、どこにどんなレストランがあり値段はどうかの情報を本にまとめた。車に乗る人のためにぴあマップという今のGoogleマップのような地図を作った。カーナビのない時代に、地図を見ながら店を探せるようになった。
周 まず自分たちから見て「これが必要だ」というスタンスに立ち、手持ちの資金で、手持ちの人脈で、やれるところまでやったのですね。伺ったところ、ぴあはTBSでアルバイトをしていた學生が集まって創業した會社で、各人のバイト経験が事業に活かされたとのことです。事業はシビアである、ということを知っていた?
白井 ソフトバンクのようにレベルの違う巨大な資金力があれば、他企業を買収して會社の規模を大きくすると手っ取り早い。しかし當時のぴあはそんなことはできなかった。やっと雑誌1冊作りあげ、本屋で販売し、殘った雑誌は友達に配り、チケットぴあの事業が始まるぐらいの感じでしたから。
ぴあのメンバーは元々TBSでアルバイトした仲間が土臺で、私もある程度サラリーマン時代の會社の規律や仕組みをわかっていた。もっと言うと當時はいきなり新卒をたくさん取れなかった。働いた経験を持ったプロフェッショナル連中が集まって、待遇は全然良くないけれど面白い會社だなと當時ずいぶん言われました。社員みんな會社が楽しくて仕方なかったです。
周 本當に、好きなことやってビジネスに仕上げるとそうなりますね。
さきほどの話に戻りますが、自分で創業しようとしたら、厳しさの感覚を、ある程度持たないと続かない。事業の中身の詰めが杜撰でうまくいかなかったスタートアップ企業が大いにあります。白井さんもそうした経験はおありでしょうか。
白井 起業にとって大切なのは、會社の中にどのくらい資金があり、どれだけの人を投下できるかを考えて展開すること。當時はお金がなく資金繰りをして事業を立ち上げました。小さく産んで大きくした、それがもう一つのポイントです。
さらにひとつ大事なことは、創業したのち途中で「もうこれ以上は続けられない、精神力だけで続けられない」というところに來る。マーケットを読み間違えたり、全くニーズのないところに事業を始めてみたりということは現実に起こる。新たな事業を起こすときに大切なのは、例えば3年後に黒字にし、ユーザー數が東京だけで15萬人などという基準を作り、その基準に達しないときには、基本的に事業を撤退する。そうしないと、リーダーの気概、創業者精神だけでやろうとしても、社員はただつらい思いをするだけになります。つまり、創業した後も、狀況を見據えて、撤退基準まで考えて決斷することが重要です。